クロネは天使の問いに答えた。
天使は安心したように微笑んだ。
「よかった…」
-第8話- 奇襲
その時視界の端にキラリと光る物をクロネは見つけた。
視線を上へと上げてみる、
そこにあったのは。
―――槍、だった。
その切っ先は天使に向いている。
「ッ!!危ねェ!上ッ!!」
クロネは声を上げた。
「え?」
天使は上を見上げる。
槍を見つけ、その切っ先が自分へと向いていることに気が付いた。
それを見計らったように槍が降ろされる。
「あ!避けて!!」
アルフが叫ぶ。
しかし天使は凍ったように動かない。
紅い瞳に恐怖が揺らいでいる。
このままでは――!!
「!!ッ」
天使は目を瞑った。
それと同時にクロネは白い床を蹴り、天使へと駆け寄る。
腕を引き、身体を自分の方へと寄せ、抱きしめる形になる。そしてそのまま横へと転がった。
転がった直後、背後から「ズンッ!!」と言う音が聞こえてクロネは恐る恐る振り返った。
先程まで天使が立っていた祭壇の白い床に槍が突き刺さっている。
ぴき、と床にひびが入る。
あと少し遅れていたら、彼女は脳天から真っ二つになっていただろう。
「大丈夫か?」
クロネは腕の中の天使に尋ねた。
彼女は微かに震えていた。
クロネの問いにぴくっと反応すると震える唇から言葉を漏らした。
「……は、い……」
「マアヤ、キミがやったの!?」
アルフの声。
「…違う、アタシ…じゃ、ない…」
答えるマアヤの声も震えていた。
「アタシは…こんな事、しない…ッ」
「じゃあ、誰が――」
「槍――、…ま、さか…『アノヒト』が――」
――――『その通りだヨ、マアヤ』
祭壇の間に声が響いた――。
祭壇の床に突き刺さった槍(ランス)の上にゆっくりと人が上から降りてきた。
長い灰色の髪、
妖しく光る紫水晶の瞳。
黒いコートのようなものを着ている。
年齢は――クロネと同じくらいか、それ以上。
残忍な表情をしている青年だった。
「……キー、シャ、さ……」
マアヤが震えながら答える。
くすくすと青年は笑う。
「やあ、マアヤ。一日ぶりだネ」
微笑んでいた表情が冷酷なものへと変わる。
「キミは何をしているんだイ?」
ぶるっ!
思わず自分を抱きしめたくなるような殺気が青年から発しられる。
「キミの事だから『任務』を終わらせてると思って迎えに来たのニ…。まさか終わらせてないとはネ」
「申し訳…」
青年の瞳がマアヤを睨む。
目にも見えない速さでマアヤに何かを投げる。
「うあああっ!!」
マアヤの腕や足から紅い液体が噴出す。
青年が投げたものはナイフだった。
「こんな所で謝られてモ…。謝るくらいなラ、任務やれヨ。やっぱりキミは――」
「それだけはっ!!言わないで下さい!」
無表情だったマアヤの顔に焦りが見える。
「まァいいヤ。さてと、俺はキミの代わりに任務を――」
「待てよ」
「ほぁ?」
やる気がなさそうな返事にクロネはますます腹が立った。
「何だ、お前。いきなり現れて、この子を殺そうとして、マアヤを傷つけて――」
「そんな事、ヒューマンのキミには関係ないヨ。ささ、早く腕の中にいるその子離してくれル?」
「何の為に?」
「う〜ン、殺す為」
クロネの腕の中の少女が反応し、彼の服を掴む。
震えている。
「断る」
「それ、キミの拒否権あんノ?その子じゃないノ?」
「怖がってるよ」
クロネは、腕と足を刺されたマアヤの手当てをしようとしているアルフの姿を見つめ、再び青年を見た。
冷酷な紫水晶の瞳は心が篭ってないように見えた。
「ふぅん、だから何?別に殺せばいいじゃん」
「お前――ッ!」
「邪魔すんノ?じゃあ、キミを殺してその子を殺すよ」
青年はそう言うと槍の上から降り、槍の柄に手をかける。
床に突き刺さった槍を抜くとクロネに向かって構えた。
「…つー訳で、死ねヨ」
クロネはまだ震えている少女に向かって話しかける。
「…あそこにいる帽子被った奴のところへ行け。いいな」
「でも、貴方は――」
「俺は大丈夫だ、早く行け、戦闘の邪魔になる」
天使は戸惑いつつもアルフ達のところへと行く。
クロネはそれを見ると剣を鞘から取り出し、構えた。
「戦闘準備OKだぜ、危険人物Aよ」
「危険人物Aって何?お前ネーミングセンスなさすギ」
両者揃って走り出す。
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