「よい…しょっ」


なるべく音を立てないように換気口の鉄格子を外すとクロネは周りに人がいないかを確かめ、静かに降りる。

-第6話- 教会 





「こいよ」


クロネは後ろの二人に言う。


「うっわ…高っ!よく降りれたね、クロネ」
「そりゃあ、お前と足の長さが違うから」
「……(怒)気にしているの知ってて言ってるよね。この愚兄」
「うっせーな。この愚弟」



「…愚兄弟。さっさとしてくれる?」


冷ややかなマアヤの声。


「あ…ごめんクロネのせいで」
「いや、足の短いアルフのせい」
「違うし!!なんか僕短足って言われているみたいだから、背が低いって言い直して!」
「お、認めたか」
「うぎゃああああ!!しまったぁあああ!!!」



「五月蝿い。いい加減にして。アンタ達場所を考えて。これ以上五月蝿くすると  切り刻むよ?」


「「御免なさい」」


アルフはクロネに支えられて降り、その後をマアヤが降りた。
当然マアヤはクロネの助けを必要としてなかったが。




「ここが、  教会   」



魔物を倒した後、クロネたちは更に進んだ。
やがて教会内部へと続く水路を発見してそこに入っていったが、自分達が入れる広さではなく断念し、マアヤが換気口を発見してクロネを先頭にして教会に入ったのだ。
何故、マアヤが教会の水路を知っていたのかはわからない。
彼女の言う『任務』が教会に関することならば知っていても不思議はない。
だとしたら、『任務』は教会に関することなのだろうか。
だから、共にきた?


『任務』の内容は知らない。
彼女は暗殺者なのだから、誰かを殺すのだろう。
一 体 誰 を ?


神官?それとも別の誰かか?


まさか――



「神の子?」



ピクっとマアヤが反応する。
紫水晶がこっちを見る。


「いきなり何を言い出すの?」
「お前の任務って神の子に関することなのか?」
「さぁ?」
「神の子って言ったらお前は反応した。だから神の子に関することなんだろ、マアヤ」
「……」
「そうなの?マアヤ…」


アルフも不審げに問う。



「それ以上詮索しないことね。でないと、アタシはアンタ達を   殺さないといけないから   」




殺気が伝わってくる。 マアヤは背中を向けているが、はっきりとわかる。




「さぁ、行きましょ」


そうだ。


マアヤは自分達の味方ではないのだ。


彼女は――



敵国の暗殺者なのだから



クロネは改めてそのことを実感した。
ただ、ちょっと一緒に戦ったからって、味方だとすっかり思い込んでいた
マアヤは。
この暗殺者は。









俺の家族を奪った国の奴なんだ






忌まわしい過去が蘇る



クロネは拳を強く握った。
家族を奪われた憎しみを抑えようと、握った。
その拳を暖かい手が包み込む。
アルフだ。


「クロネ、行こう?」


その顔には困惑の表情が出ていたが、明るく笑った。



「…あぁ」


この笑みに少し救われたかのように感じた。









教会の中は不思議だった。


白い世界。


何の音もしない。



聞こえるのは自分達の足音。


クロネは前を歩いているマアヤの背中を見た。
一体何処へ行くというのだろうか。



「クロネ。見てよ、アレ」


隣を歩いていたアルフがクロネに小声で語りかける。
アルフが指差したもの…それはガラス張りになっている部屋だった。


「中、見てみて」


クロネはアルフに言われるまま覗き込んだ。





「!!!!!!!!、何だよ、これ」




そこには夥しい数の機械が安置されていた。 見覚えのある器具もあった。


「ご、拷問器具…っ」




見覚えのある器具…それは。

ガライドでの奴隷時代のとき嫌なほど見た拷問器具。

それには赤黒いものが付着している。




「うっ…っ!!」
「クロネ?大丈夫?」



クロネは手で口元を押さえて蹲った。
気持ち悪い。気持ち悪い…!



「言わなきゃよかった…ごめん。クロネ昔のこと思い出させて」
「いいんだ…。それより、何で…こんなものが…教会に…っ、スファルにあるんだよっ!」



「それが、スファルの正体」



冷ややかな声。


背後にマアヤが立っていた。




「どういうこと…?」




「スファルは、平和の国…って言われてる。神聖な国とも、アルティア…神の国に地上で一番近い国だとも言われてるね。 武力兵器を持たないって言ってるけど、裏はこうだよ。一般人の目に触れないようなところで兵器を作り、保管して…。 罪人に罰を与えるための拷問器具も置いてある。 今でも使ってるよ」



「そんな…スファルが、そんなことを…」


「これが証拠」


「だから…一般人の立ち入りを禁止した…のか」






その時、物凄い光が降り注いだ。




「何!?」


眩しさのあまり目が眩む。


「…もう、そんな時間なのね」


マアヤの声は震えていた。


駆け出すマアヤ。



「おい!マアヤ!!」
「クロネ、僕らも行こう!!」
「ああ!」


マアヤは光が出ている所へと走っていく。
クロネとアルフもそれに続いた。



やがて、長い廊下が終わり、開けた場所へとたどり着いた。


そこは祭壇のようだった。


アルティア神の銅像(とは言ってもこれは神官たちが想像したものだが)が祭壇の一番高いところにある。
天井からぶら下がった十字架。
部屋を周りを堀のようなもので囲まれていて、水がその堀を流れている。



光が一層強くなる。

クロネたちは思わず目を瞑った。


なんという光の洪水!!



光が弱くなってクロネは目を開けた。



無数の純白の羽根が部屋を漂っている。


いやそれより。



祭壇に白いシルエットが現れていた―――。






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