「ここだ。さっさと入れ!!」
そう言われクロネは牢に投げ捨てられた。
「いってぇな!!投げることないだろ!!」
「口答えするな!」
槍の柄で頭を殴られる。
「――がっ!」
-第4話- 暗殺者マアヤ
アルフと襲撃者が牢に入ると ガシャン と言う音を立てて鍵が閉められた。
「いってぇ〜〜。あの兵士本気で殴りやがったな」
殴られた頭を撫でながらクロネはぼやいた。そう言えば今朝も殴られた。
「…僕たち、これからどうなっちゃうの…?」
アルフが不安そうに言った。襲撃者が壁に寄りかかりながら答えた。
「神聖な儀式の日に教会へ不法侵入――。処刑」
「そ、そんな…!」
「ったく、お前が襲ってきたせいでこうなったんだぞ!?」
襲撃者は黙ったままだ。
「何とか言えよ」
「五月蝿い。ったくこれだからヒューマンは…」
「……」(怒
「とにかく、ここ出なきゃ。処刑されるのは嫌だよ」
「そうだな。おい、お前も手伝えよ」
「何故?」
「何故…ってお前も処刑されるのは嫌だろ」
「…別に。もう任務は失敗してるもの。国に戻っても殺されるわ」
「国?国って何処だよ」
「ガライド」
「ガ、ガライド!?」
「じゃあ、君はガライドのスパイ!?」
「スパイ…とは違う。暗殺者」
「暗殺者?誰を殺すんだ…??教会関係か??」
「これ以上は答えない。アンタたちは何?どうしてあそこにいた?」
「僕たちは――教会に入ろうとしていた」
「何故?」
「知りたかったから。教会を――」
「ふうん…」
そう言って暗殺者は、クロネたちに近づいた。
何か面白いものを見つけたような妖しい笑みを浮かべて。
「…アンタたちに真実を見せてあげる。教会の…ね。いい勉強になる。何も知らない『お子様』」
「お子…!!」
「アタシの名前はマアヤ。マアヤ・ルーテル」
「俺は…クロネだ。クロネ・ルセル」
「僕、アルフ・クロレク。よろしくね、マアヤさん」
そう言ってアルフは手を差し出した。マアヤは手を見ると冷たく言い放った。
「マアヤで結構。馴れ合いは嫌いなの」
「…そう」
「ここからどうやって出るんだよ、マアヤ。武器は取られたんだぞ?」
「アタシはアンタたちみたいにマヌケじゃないの」
そう言ってマアヤは両手を翻した。
キラリと光る銀色の糸が現れ、鉄格子を切った。落ちたとき音を立てないように粉々に。
鉄の粒子が漂う中マアヤは牢から出た。クロネたちも続いて出る。
「お前、そんなの何処に隠してたんだよ!」
「この糸は私の一部なの。ガライドの技術よ」
「ふうん…」
関心したかのようにアルフは呟いた。「便利だね」とマアヤに笑いかける。
マアヤはある一角の場所を指差した。
恐らく見張りをする看守がいる場所だろう。
「あそこにアンタたちの武器があるんじゃない。待っててあげるからさっさと取ってきなさいよ」
「何かムカツク」
マアヤが言ったとおり、クロネたちの武器が置いてあった。
不思議なことに看守はいなかった。
見回りにでも行っているのだろうか。
アルフはチャクラムを腰に装備し、杖を持った。クロネもアルフのナイフを腰に装着する。ベルトに鞘が付いている。
マアヤはクロネの装備を見て言った。
「クロネ…アンタ、その装備じゃ危険だわ。リーチが短いからね。アルフと違って魔法使えないのでしょ?」
「しょうがないだろ…。武器は家に置いてきたし。魔法なんて使えねぇよ」
「じゃあ、そこにある剣とか槍とかもらっていったら?」
「駄目だろ、それ。泥棒じゃん」
「あら?脱獄のほうが罪は重いと思うけど?それに処刑されるかもしれないのでしょ?今更罪が重くなってもねぇ…」
「…じゃあ、剣。もらってく」
壁にかけてある剣をクロネは取った。二、三回剣を振ってみる。
「じゃあ、いきましょうか」
「どこからでるんだよ?」
「ここに連れてこられるときに見たんだけど、もう少しいったら水路があった。そこからなら町に出られると思う」
「そっか、水路は町に続いているんだもんね!」
「当たり」
そう言ってマアヤは戦闘に立って歩き出した。クロネは剣をしまい、すぐに抜けるように左手に持った後マアヤの後を追いかける。
ずっしりとした剣の重みを感じた。
しばらく歩いているとマアヤは止まった。
「どうした?」
「…静かに」
通路の向こうに火の灯りが見える。その灯りには影が映っている。それはゆっくりと動いていて、こちらに向かってくる。
「看守…。どうやら見張りを終えて戻ってくるみたいね」
「え…それって、やばくね?」
「殺るしかない。アンタたちはここにいな。…こう言うのは慣れてるから」
ひゅん…と糸が空を切る音がする。
「慣れてるって…おい!!」
マアヤは物凄い速度で走って行った。
『慣れてる』
それは彼女が何度も人を殺しているということ。
「…暗殺者」
通路の向こうの灯りにもう一つ小柄な影が映る。
その影は、上から襲い掛かると腕を横に振った。
鮮血が吹き出る影が映った。
断末魔が出なかったのは、おそらくマアヤが声帯ごと切ったからだろう。
どう、と倒れる影と同時に小柄な影も姿を消す。
やがて灯りも消えた。
早い――。
クロネはそう思った。
一人、二人…いやそれ以上に彼女は殺している。
あまりにもスムーズだったから。
暗殺者が――マアヤが糸に付着した血を振るいながら歩いてくる。
「…」
その顔は無表情。
「行こう。ここから水路にいける」
マアヤは壁の下にある鉄格子を糸で切るとその中へ迷うことなく入っていった。
どうして、人を殺して…なんともないんだ。
俺たちは殺していないけど、見ていたら嫌な感じになった。
慣れれば、なんともないのか?
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