(『約束のとき』―?)


アルフが残していった言葉を思い出しながらクロネは自室への道を歩いていた。

ずきん…


(くそ、何で頭痛くなるんだよ。『約束のとき』って聞いてからずっとだ。…それに…)



「聞き覚えがある――」

ぽつりと言の葉を零す。


(何でだ?どうして知っている?そう、『約束のとき』と言うのは――)


『大地滅び行く時、神の世界から天使が舞い降りる。彼の者、大地を潤し、世界に救いをもたらすだろう』


伝承の言の葉。



「天使が…舞い降りる…」








-第3話- 襲撃者 






(来ちまった…)



クロネは教会の前に立っていた。雨が降っていて周りには誰もいない。
濡れた髪が顔に貼りつくのを気にせずにただ、立っていた。




(行かなきゃ…って思って…)


何かを感じる。




「…やっぱり、気になるんだァ…」


背後から声がした。



「うわ!!??ア、アルフ…、お前なんでここに!?」
「こっちの台詞だよ。クロネこそ、どーして教会の前に突っ立っているのさ」
「俺は…」
「やっぱり入りたいんだ〜〜」
「…別に」
「嘘はいけませんよ」
アルフは、利き手の右腕に杖をもち、左手にはチャクラムを持っていた。さらには腰にナイフがある。


「お前…重装備だな」
「ふふ…教会に侵入するんだから当たり前♪いざとなったらこの杖で バキ っと…。あとチャクラムとナイフで ザシュ っと…ね」


義弟の黒い部分を見てしまったクロネは苦笑いするのみ。


「クロネも何か武器もってきなよ。何かあったら役に立つよ」
「武器…って言われてもな」
「まさか…持ってないとか?」
「う…」
「駄〜目じゃん!!今時身を守るもの持っていないと!!最近危ないんだよ?ガライドとの戦争が始まりそうだから――」
「戦争?そんなにやばいのか?」
「はぁ!?知らないの!?世間知らず!!いつも家に閉じこもってニートのようなことしてるからだよ!」
「ニートじゃねーよ!!知らないもんは知らん!!それに俺はお前と違ってバイトしてるし!」
「意地張ってもなぁ…。いい?この国スファルとガライドとの関係はよくないんだ。ここずっと停戦状態だった。でも、最近ガライドに動きがあったんだ。兵器を作っているらしいよ…」
「兵器…。俺があっちにいたときにはそんなのなかったな」
「大量殺人兵器…通称『イレイザー』。その兵器は辺りを一瞬にして灰にする」
「…灰」
「そうだよ。そんなものをあいつらは作ってんだ。だから、スファルは警戒してるんだ。あいつら魔族は兵器が完成したら攻撃してくる」
「…だいたいわかったよ。それで――」






きらり



雨の中で光る無数の線が見えた。その線はアルフの周りに張り巡られてる。


「アルフ!!危ない!!」
「え…!」
「くそっ!!気づけよ、鈍感!!」



クロネはアルフの手を引っ張った。


つい一瞬前までアルフが立っていた位置に線が凝縮され、地面が抉られた。


「あ、危ねぇ…!!お前、あともう少し遅かったらミンチだぞ」
「…ごめん…ありがと」
「とりあえず、前の敵に集中しろ。出て来い、そこにいるのはわかってんだ」



「っち…。ヒューマンって言うのは、馬鹿ばかりじゃなかったってことかい」



降り注ぐ雨の中から襲撃者は姿を現した。



毛先にむかって淡い桃色のグラデーションがかかった長い髪は後ろの高いところで縛っていて、鋭い瞳は紫水晶。
変わった形の服は、『キモノ』と言うものだろうか。丈が短い。
襲撃者は女だった。
その女は右手を翻した。線が――糸が彼女の周りに現れる。



「アタシ、任務の途中だから。アンタたち、邪魔。取りあえず…死んでくれる?」




糸がクロネとアルフに襲い掛かる。

「アルフ!!ナイフ貸せ!!」
「え!?どーするんだよ!!」 「ぶった切る!!こんな糸!」


アルフはクロネにナイフを渡した。クロネはナイフを構えると迫り来る糸に向かって走った。



「アルフ!!お前は後ろで魔法でも唱えてろ!!もしくはチャクラムで攻撃!」



そう言ってクロネは糸にナイフの刃を当てた。



「切れねぇ…!!ってか、硬ってぇ!!」
「クロネ!!」
「俺のことはいいから、唱えろ!!お前は攻撃すんな!!」




「そんなナイフで切れると思ってんの?ふざけないで、アタシの糸はそんなナイフには負けない!!」
「所詮糸でしょ!!炎はどうだ!!」


アルフの辺りの雨を蒸発させながら炎の魔法が糸に当たる。


「やった…!!…ってアレ??」
「嘘だろ、燃えないのかよ!!」




「残念…。普通の糸じゃないのだよ…。鋼鉄で出来た糸だから」



ひゅんっ



糸が空気を切る音がして、腕に熱いものが当たった感じがした。



「痛…!!」
「クロネ!」
「来るな、アルフ!!」



熱いものの正体は糸だった。糸がクロネの腕を斬ったようだ。腕から流れる血と同じ血が糸についている。


「利き腕をやった。さぁ、どうする、ヒューマン」


左手で右手を押さえるが、血が止まらない。



(しかも、雨だし…)



服を千切って右腕の上腕に巻きつけて止血した。これで少しはましだ。
だが、右腕は動きにくい。だから、左手でナイフを持つ。


(利き手じゃないから違和感ありまくり…)





「このっ!!クロネに何するんだよぉ!!」




アルフの魔力が高まる。



「集え!炎!!」



赤い光が襲撃者の周りに集まり、凝縮する。



「っち!!エルフとはね!!」



「クロネ、大丈夫!?」
「馬鹿野郎…何で逃げない」
「兄弟を置いていけるわけないじゃん!!」




「そこッ!!何をしている!!」


雨の中に声が響いた。
かしゃかしゃと鎧の音が近くなる。




「やばっ!!警備兵だ!!」
「アルフ、お前は逃げろ。早く!!」
「やだよ!!」
「言うことを聞け!!」




「動くな!!怪しい奴らめ!」




ピィィー…



笛の音が鳴り響いた。次々に兵が集まってくる。




「…しくじったね」



襲撃者がそう呟いた。身体のあちこちが焦げている。





クロネたちは囲まれた。兵たちは槍の穂をこちらに向けている。


「連行する。抵抗するなよ」



「どうしよう、クロネ」
「…抵抗するな。武器を捨てるんだ。いいな、アルフ」




クロネは持っていたナイフを落とすと静かに両手を差し出した―















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