「お早う、クロネ」 「…お早う」



この辺りじゃ珍しい銀髪の少年―アルフ―はいきなりクロネの頭を叩いた。



-第2話- 日常 





「いて…」
「もっと元気そうにしなよ。でないと、幸運が逃げちゃうぞ〜〜」
「…そうだな」
「じゃあ、笑顔の練習!!」
「…は??」


素っ頓狂な声。アルフは馬鹿にされたかと思って彼の頬をおもっきり引っ張った。




「え〜〜が〜〜お〜〜〜」
「いってぇ…!!」
「あはははははっ!!ヘンな顔〜〜!!」
「お前なぁあ〜〜〜!!!!」



今度はクロネがアルフの頬を引っ張った。


「いひゃい」
「このっこのっ!!」
「いひゃい、いひゃいよ。クロネ〜〜!!」



自然に笑みが零れる。




俺は一人じゃない



ごぃんっごぃん!!!
「いてッ!」
「痛いッス!!」



何かで殴られた鈍い音がして、頭に衝撃を受けた。



「朝っぱらから何やってんだい、このバカ共!!」



丸く太った身体をゆさゆさと揺らしながら、アルフの母―レア―はお玉を持っている手を腰に当てた。



「喧嘩するほど仲がいいって言うけどね〜〜!!喧嘩するなら朝ごはん食べてからにしておくれ!!ほら、クロネ!!皿だす!アルフ!!ベーコン焼きなさい!!お客さんじゃないんだからね!」



「おい、アルフのせいで怒られたぞ」

恐らくたんこぶが出来て腫れている部分を探しながらクロネは言った。


「何言ってんの?クロネのせいじゃない」


彼も同じことを考えていたらしく、クロネ同様頭を触っていた。
―たんこぶ発見。


「やるか?」



「無駄口叩かない!!さっさと働け!!」



レアのお玉による攻撃が再びクロネとアルフの頭にあたった。




アルフ・レアの親子はスファル周辺で母親の亡骸を抱きながら泣いていたクロネを保護した者達だ。
彼らはクロネとその母親を街まで連れて行き、母親の墓を作ってくれた。
それだけではない、レアは身寄りのないクロネを引き取ってくれたのだ。
クロネにとってレアは命の恩人である。
最初はぎこちなかったが次第に打ち解けていき、今では立派な家族となっている。

当時、アルフは珍しい銀髪のため街の子供達からいじめられていた。
今では想像できないが、性格が暗くなり部屋に閉じこもっていたことが多かった。
そんなアルフをクロネは救ったのだ。
彼の声を掛け続けた。
彼をいじめていた子供達と「アルフと同じ目にあわせやる」と大喧嘩した。
子供達はもう彼をいじめない―否、クロネがいる限りいじめられない―と思い、それ以来アルフはいじめられなくなった。
そして徐々に性格が明るくなり、部屋からも出るようになった。


アルフはクロネを本当の兄のように思い、慕っている。



「ねぇ、今日は何する?」
朝食の後、アルフはクロネにそう言った。クロネはめんどくさそうに「寝る」と答えた。



「…暇人」



ぽつり、とアルフは呟いた。すると思いついたように手を叩いた。


「…そうだ。…ねぇ、クロネ。ちょっと侵入してみない?不法侵入」
「何処に」
「…教会だよ」
「はぁ?何言ってんだよ、お前」

クロネはアルフの頭を軽く小突いた。額に指を突きつけて更に言った。



「教会は立ち入り禁止なんだぞ?わかってんのか??王家、高官、神官くらいしか入れない。俺たち一般人の行くところじゃねーよっ!」

クロネはアルフの額に当てた指を弾いた。



「だからだよ。だから行くんだよ。何で一般人に隠すの?何で入っちゃいけないの?何か秘密があるはずだよ、きっと」
「で、侵入して見つかったらどうするつもりだよ?前に教会に不法侵入して捕まって国外追放された奴見ただろ?」
「僕はそんなヘマしないよ」
「どこからそんな自信が来るやら…」
溜息をついて目を伏せ、二階に行こうとする。こんな馬鹿げた話は聞きたくない。
アルフが階段の前に立ちふさがる。

「…聞いた話によるとね、今日は特別な日なんだって。『約束のとき』…がどーたらこーたら」
「『約束のとき』?何だ、それ」
「気になるでしょ?」
「気になることは、気になるけどな」
「でしょでしょ〜??だから…」
「言っとくけど、俺は教会なんて行かないからな」
「え〜〜!!どうしても??」
「どうしても」
「…じゃあ、諦める」
「そうそう、諦めろ」


しゅん…と悲しげにアルフは目を伏せた。 そして、階段を昇って自室へと入っていった。



クロネは持っていたヘアゴムで長く伸ばした襟足を三つ編みにし始めた。








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