栗色の瞳で少年――クロネ――は自室にある窓から外の様子を見ていた。


外は、雨が降っている。


雨を睨むかのようにクロネは見ていた。


(何かありそうだ)
そう、感じた。





-第1話- 少年の過去





下の階からクロネを呼ぶ声変わりしていていない少年の声がして、クロネは雨から視線を外した。



ここスファルは、平和だ。 前にいたガライドとは全く違う。ガライドでの日々は
――地獄そのものだった。


人が死ねば、その屍骸はそのまま放置され死臭がいつも漂っていた。
食べ物さえろくになかった。水一杯とカビたパン一切れ―それが一日の食事。それでも、まだよい方だった。一緒に連れられていた母から食料をもらって、何とか生きてきた。





同じ奴隷で、友達が出来た。
それは一人の少女だった。
彼女はいつも明るく、優しかった。
そんな彼女にクロネは救われていた。




だが――彼女は殺された。




ガライドに。
彼女が老婆を庇ったことが原因だった。







『やめてください!!こんなに苦しんでるじゃないですか!!』
『何だ貴様、歯向かうのか!?』
『おばあちゃんを殴るなら、私がかわりに殴られます!!だから、乱暴しないで!!』
『じゃあ…殴ってやるよ!!』



『おばあちゃん、逃げて…。私は大丈夫だから』




9歳の少女に彼らは暴力を振るった。
そして――






ザシュ……



彼女はナイフで切りつけられた。



紅い雨がクロネに降り注いだ。


温かい、紅い雨が――。










『おい!大丈夫か!?』
『大丈夫じゃないっぽい…』
『今、お母さん呼んだから!!こんな怪我、治るよ!!』
『ごめんねぇ…』
『謝るなよ…』
『約束…したのにね、いつかここを抜け出していろんな所に行こう…って』
『うん』
『ごめんね…。約束…守れないよ…!』
『そんなこと…言うなよ』











『今度、生まれ変わるときは…君と…一緒に…世界を……』






そして、彼女は息絶えた――。
その日も、雨が降っていた。




あれから時が経った。



クロネはベッドのサイドテーブルに置いてある両親の形見の結婚指輪をチェーンに通し、首に掛け部屋を出た。


クロネは少女のことを思い出しながら階段を降りた。



(ガライドを抜け出すとき――父親が、俺たちを庇った)




『行け!!ここは私が食い止める!!』
『お父さん!!』





背中に何本の矢が刺さっていて、額からは紅い血が流れ、頬を伝っていた。



『クロネ…信じれば、また逢える。生きるんだ、どんなことがあっても…。逃げろ!!』






スファルに着いたとき、母が死んだ。











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