するとアルフは「あ」と思い出したように言った。



「さっき母さんに連絡取ったからきっと来るよ」
「レアさん来るのか!?」



さっきから聞こえる「どどどどどどどど」と言う地響きは空耳ではなかったのだ、とクロネは思った。














-第13話- 天使の旅 







「まずい、何処かへ…」
「何故ですか?お見舞いに来てくれるのでしょう?」
「いや、駄目なんだ、レアさんは…」




ばぁ――――――――ん!!!





ドアがアルフ以上に勢いよく開かれる。
クロネは「ひっ」と短い悲鳴をあげた。



「クロネッ!!!!!大丈夫かい!??」




丸く太った身体をゆさゆさと揺らしながらクロネに近づくレア。
クロネの表情が凍りつく。




「あははは…大丈夫です、レアさん…。だから…」
「近くで顔を見せておくれっ!!」
「だからっお願いですから近づかないで―――ッ!!」



丸く太った身体がクロネを抱きしめる。



本日二度目の、今度はクロネの叫び声が響いた。
















「ごめんねぇ、クロネ。おばさん心配していて」
「あはははははは。…そうですか」




(どうしてこの親子は…っ)
ほぼ棒読みでクロネはレアの相手をする。
そんなクロネを見て、シルヴェは同情した。
また、治療してもらっている。




「しっかし、アンタもドジだねぇ」
「?」








「だって、雨で滑って教会前の階段から転がり落ちて、街の外まで転がって、途中に馬に蹴られて、茂みにダイブして、たまたまそこにあった武器がお腹に刺さるなんてねぇ!!ついてなかったね」




「………アルフ」
「何〜?」
「お前…嘘付くならもっとマシな嘘付け」
「いや、こっちの方が面白いでしょ?」



お空の彼方にいられます母君。
俺は今日【ドジっ子】と言う称号を手に入れました。




「今度から気をつけるんだよ!クロネ」
「わかりましたよ。滑らないようにしますよ」(棒読み




「さて」とレアは立ち上がる。





「もう行かれるんですか?」



シルヴェはレアを見上げる。



「夕食の買い物にいかなきゃいけないからね。クロネ、大人しくしているんだよ?」
「その言葉そっくりそのまま返しますよ」
「生意気な事言って!それだけ元気なら大丈夫だね!」





来た時と同じようにゆさゆさと身体を揺らしながらレアは部屋から出て行く。 部屋の入り口に身体が引っかかったのはあえてツッコミはいれないでおこう。

窓からレアが大通りに出て行くのを見た後、シルヴェは口を開いた。





「お話があるのです――」




クロネとアルフはその真剣な声に振り返る。



「私と一緒に旅に出て欲しいのです」









「旅?旅って――」

「神の子はある場所を目指して旅をします」




シルヴェによる旅の説明が始まる。









『大地滅び行く時、神の世界から天使が舞い降りる。彼の者、大地を潤し、世界に救いをもたらすだろう』

『人々よ案ずなかれ、救いは訪れる』



と言う言葉は知っていますね?
この『神の世界から舞い降りた天使』と言うのは『神の子』つまり、私です。


今この世界は滅びかけています。
神の子は世界を救うべく、地上の何処かにある『古代樹』と呼ばれる大地そのものの樹を目指し旅をします。


しかし、『古代樹』には結界が張られており、見ることも近づくこともできません。


結界を解く方法――それは、地上に封印されている12個のオーブを見つけること。




全てのオーブを集め、『古代樹』へたどり着くこと。
これが神の子の旅――使命なのです。










「世界が滅ぶ…って、本当なの?世界を救う為に神の子は大変なんだね…」

「使命ですから」


シルヴェは頷く。




「…旅をするってことは、危険な目に会うってことだよな」

ぼそっとクロネは呟いた。



「はい。本当は巻き込みたくないのですが…」
「今、スファルとガライドは戦争が勃発しそう…だからか?だから、ここの兵はつれて行けない。ここの守備を手薄にする訳にはいけないから」

「そうです…。貴方方は先日、彼を倒した。その力を私に貸していただきたいのです」



クロネは目を閉じて考える。





本当は、もう戦いたくない。
しかし神の子一人旅に出ると、途中で死ぬ可能性が高い。
戦争よりも多くの人々が死に絶える。
大地が滅ぶから。
そして、何よりも本能的に求めているのだ、自分が。



「…俺、行くよ」

「クロネ、本気!?」



「シルヴェ一人じゃ、途中で死んでしまうかもしれない。そうなったら、戦争よりも多くの人が死んでしまう。世界そのものがなくなるんだ」



それに…



「アイツ――キーシャがまたシルヴェを狙ってくるかもしれない」

「ありがとう」


シルヴェはクロネの手を取り、微笑んだ。



「じゃあ、僕も一緒に行く」


「ばっ!お前何を…」


「クロネ一人じゃ心配だもん!それに…僕だってシルヴェの助けになりたい。世界を救いたいんだ。この世界が好きだから」



アルフは本気だ。




クロネは驚いていた。
珍しい銀髪のせいでいじめられていたアルフが世界を『好き』と言うなんて。



「そう…か」




「と言う訳だから、僕も行くよシルヴェ」


「ありがとう、アルフさん。あ、でも…」



シルヴェの制止に二人は首を傾げる。


「クロネさんの怪我が治ってからにしましょう?」







こうして、旅は始まった――。











第1章  Time Of Promise 了


Time Of Promise:約束の時

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