クロネは目を覚ました。
ここは――
どうやらベッドに横たわっているらしい。
見覚えの無い真っ白な天井が視界に入る。
辺りを見渡すと自分の部屋ではないようだ。
かと言ってアルフの部屋でもない。
白で統一された空間だった。
-第12話- 戦い終えて
(一体何が――)
今日起こったことを思い出してみる。
教会に行って、暗殺者『マアヤ』と戦って、
捕まって、水路を辿って教会の内部に入って、
そこではあり得ないものを見て、
祭壇の間に行って、天使が降臨して、
そしたら奇襲を受けて、
戦って、
そして
「俺――生きてる?」
部屋にある大きな窓からは晴れた蒼空が見えた。
あれから時が経っているらしい、少なくとも一日は。
腹部には痛々しい包帯が巻かれていた。
身体を起こそうとしらが鈍い痛みが襲った。
「痛ぁ〜っ」
「あまり動かないで下さい」
ドアの開く音がしてクロネは入ってきた人物を見た。
空色の淡い髪、意思の強い紅い瞳。
天使だった。
最初に見たときとは服装が異なっていた。
前は真っ白なワンピースだったが、今は白と蒼を基調としている服を着ている。
清潔感のある服だ。
金のチョーカーと十字架には変わりはないが。
「あれだけの傷を負ったのです。動けなくて当然です」
「はは…あれ、明らかに致命傷だもんな…」
少女は椅子に座る。
十字架を握り締め、呟く。
「『アテナ』」
暖かな夕焼け色が十字架から発しられ、その光はクロネの腹部へと移る。
腹部が温かくなったかと思うと痛みはひいていた。
「あれ?」
「まだ、痛みますか?」
「いや、全く」
きっぱりとクロネは言う。
その様子に少女は微笑む。
「ひょっとして…キミが治したのか?」
「ええ」
「そっか…ありがとう」
クロネがお礼を言うと少女は首を横に振った。
「いいえ、お礼を言うのは私です。私を助けてくれてありがとうございました」
少女は綺麗に微笑む。
「自己紹介がまだでしたね。私は【神の子】シルヴェ・アルティアです」
「俺は、クロネ。クロネ・ルセル」
暖かな陽だまりの中二人は手を交し合った。
「クロネ!」
アルフが勢いよく部屋に入ってくる。
「アルフ」
大丈夫だったか、その言葉を言おうとしたが。
アルフに抱きつかれ言えなくなった。
「ぐぇ」
「よかった―!生きてて…っ!!生きててよかったよぉ…!」
涙を流すアルフ。
天使――シルヴェは困ったように言う。
「あのう、アルフさん…クロネさんのお腹に…」
「へぁ?」
かなり間抜けな声を出してシルヴェに言われた通り、クロネを腹部を見る。
アルフの手がクロネの腹部に思いっきり当たっていた。
「くはっ……傷が……っ」
「あ―――――っ!御免――――!!」
アルフの叫び声が木霊した。
「お前は俺に恨みでもあるのか」
「だからワザとじゃないって…」
「ワザとじゃなきゃ怪我人に抱きつくという行為はしないぞ」
「だから御免って…」
アルフが抱きついたことによって開いた傷口をシルヴェに治療してもらいながらクロネは説教していた。
「で、ここは何処だ」
「ここは教会近くの病院です」
シルヴェが答える。
「あの後大変だったんだよ!?クロネは倒れちゃうし、マアヤとアイツはいなくなっちゃうし」
「ちょっと待った」
「ん?」
「アイツ――、その、シルヴェさん?を襲ったあいつどうなったんだ?」
「覚えていらっしゃらないのですか?あとシルヴェでいいです」
「俺が腹に槍刺さってから覚えてないんだけど…」
アルフとシルヴェの説明によりクロネは自分がキーシャを追い払ったことを知った。
そしてその後神官達が祭壇にやってきて、シルヴェが脅して――否、庇ったおかけで無罪となったようだ。
「マジ?俺?」
「そうだよ、クロネ。キミがあいつ――キーシャを倒したんだ」
「全く覚えてないんだけどな。つーかアイツ、キーシャって名前だったのかよ。しかも俺、ちゃっかり名前覚えられちゃったわけ?」
クロネは嫌そうな顔をした。
「あの時のクロネさんは様子が変でしたから。目の色が今とは違う、金色でしたし」
「うん。何か凄く剣術も冴えてた」
「アルフ、何だかいつも俺の剣が冴えてないような言い方するな。後で覚えてろよ」
「…ごめんなさい」
「ところでシルヴェ。どうやって神官達を説得したんだ?」
「ああ、それですか。えっと〜 神の子としての権力を使いました」
「それって脅しだよな」
クロネの言葉にシルヴェはきょとんとする。
「え?これが脅しって言うんですか?初めて知りました」
にっこり。
クロネとアルフはこれからシルヴェが黒くなりそうで恐ろしくなった。
「クロネは三日間意識がなかったんだよ?」
「三日!?しまった、バイトがっ!親方きついんだよな〜」
「そのことは私が何とかしました」
「え?」
「えっと〜親方さん?って責任者ですよね?教会の神官に有給取るように頼んでおきました」
「悪いな、シルヴェ」
「当然のことをしたまでですから」とシルヴェははにかむ様に微笑んだ。
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