「お前たちはよくやっタ。俺相手ニ。せめてもの救いだ、苦しまずに逝かせてやル」

天使はその声に気付き叫んだ。


「…やめてぇ―――!!」






-第11話- Gold.....  





【ドクン】



(え?)


天使は心臓の鼓動音を聞いた
誰の?



天使の膝の上で黒衣の少年が微かに動く。


「意識を…取り戻した…?」



天使は少年を床に下ろすとその様子を見た。
少年はゆっくりと上体を起こす。
完治していない腹部はまだ出血している。



「まって、動かないで…っ」


天使の制止を聞かず、少年は立ち上がる。
近くに落ちている自分の剣を拾うと青年に向かって歩き出す。



コツ。


靴の音がやけに大きく聞こえる。



「ク…ロネ?」



首筋に槍を当てられたままアルフは呟いた。
青年は驚愕する。



「馬鹿ナッ!!何故立っていられル!?」



青年の言う通り、少年は立っていられない程の傷を受けている。 少年が歩いた後には朱の色の斑点が無数に描かれており、その傷の深さを物語っていた。 その表情は前髪で隠されていて解らない。



「…とどめをさしてやル」



青年はアルフから槍を離し、少年に向ける。 少年は歩き続ける。
はらり、と前髪が避け、表情が露になる。
少年は青白い顔をしていた。 当たり前だ、あんなに血を流したのだから。
少年の瞼は閉じられている。



「死に底無いガ」



槍を構え走り出す。
少年は槍を剣で受ける。
少年が瞼を開ける。




少年の瞳の色は―――金色だった。




青年は一旦距離を取った。
少年は剣を利き手とは逆の手――左手で持つ。
そして青年へと走る。



「はっ、戦略なしカ!」



青年は槍を突き出す。 少年は飛んでそれをかわす。 槍を少年が着くであろう場所に構える。 少年は金の瞳でそれを捉えると、空中で身を翻した。
腹部から出ている鮮血が弧を描く。




「な―!?」


少年は青年の後ろに着地する。
そして振り向くのと同時に青年を斬った。



「ぐっ!!」



青年は腕から槍を落とす。



「しま――」

それを少年は見逃さなかった。
青年を押し倒し、その上に乗る。
そして剣を首に当てた。


「…………」



少年の背後にはステンドグラス。
ステンドグラスには天使が描かれていた。 その天使の羽根の部分が少年と重なる。
黒衣の少年に羽根が生えたかのように見えた。


天使のようだ――。
否、堕天使か。


青年はそう思った。
金の瞳が青年を見つめる。
青年は動じない。



「殺さないのカ?俺ヲ」

「…………」



ぽたぽた、
青年の上にも少年の血が落ちる。
少年は無言で剣を構える。
青年は笑う。



「くすくす…。そう、それでいイ。さぁ、俺の喉を掻っ切レ!!」



少年は――剣を……





「駄目です」




凛とした声。
天使は少年の手を止めた。


「人を、殺めてはいけません。それが憎むべき相手だとしても」




青年は彼女を睨む。



「神の子、邪魔をするナ」

「私、言いましたよね?『目の前で尊い命が消えるのを見逃すわけにはいきません』と」

「…つくづくご立派な思考を持っているナ」



ふっと青年は笑う。
そして少年を蹴り上げた。



「――!」



少年が青年の上からいなくなった隙に青年は起き上がる。
少年は体制をなおすと剣を構える。
そんな少年を見て青年は笑う。



「大丈夫。もう戦う気ないシ。キミなかなか面白そうだかラ、殺すの後にするヨ。神の子もなんかどうでもよくなったシ」
「どうでもって…」


青年は手を振りながら入り口へと歩いていく。
マアヤの隣に立ち、言った。






「俺はキーシャ・ライン。ガライドの暗殺者。たしか…クロネだったナ」





くすくす。




「じゃあ、なクロネ」


魔方陣が現れる。


「あれは、移動型魔方陣!!」


アルフと魔方陣を見るなり言う。
魔方陣はマアヤまでも呑み込む。
そして同心円状に光が立ち上がる。
次の瞬間、マアヤと青年――キーシャの姿はなかった。


二人がそこにいたと言う証拠はマアヤの血の痕が証明していた。






少年は金の瞳からいつもの栗色の瞳になる。
そして糸が切れたようにクロネは倒れた。
























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