5つに分かれている世界。
その中の国、スファル。
その首都から南西に離れた場所の森の中。
彼らはその中にいた。










-第15話- 3日後 







「クロネ!そっち行ったよ!!」

声変わりしていない少年の声が森の中に響く。
白い大きなふんわりとした帽子と、銀の髪が特徴的な少年―アルフ。


「分かってるって!」


それに答えるように栗色の髪、―襟足を三つ編みにしている―、黒衣の服の少年がアルフに聞えるように叫ぶ。
少年―クロネは目の前に現れた白い獣―俗にいうウサギに飛び掛った。
ウサギは突然現れた敵に驚きUターンした。
クロネはウサギを捕らえられず地面に激突する。


「あたっ!」
「んもう!ちゃんとしてよ!今日の夜ご飯なんだから!」


地面と「こんにちわ」状態になっているクロネの横をアルフが通り過ぎていく。
クロネは身体を起こしてアルフの後を追った。


「しょーがねぇーだろ!勢い任せでいったんだからさ!それに逃げるあいつが悪いっ!」
「あーもうごちゃごちゃ五月蝿いなぁ!」


走りながら義兄弟は会話をする。
その時ふと視界が暗くなった。
見上げると純白の羽根を広げた少女が空を飛んでいた。
少女は紅い瞳で周りを見渡し、そして目標に向かって急降下した。
しばらくして再び空に現れた。
そしてそのまま義兄弟の下へくる。
その手には袋。



「流石ぁ」
「捕まえました」


純白の羽根をしまいながら―消しているのだが―、少女、シルヴェは微笑んだ。


「やっぱり空飛べるのっていいよな、狩りが楽だ」
「そうですか?私はお二人のように早く走れませんから、お二人が羨ましいです」
「その代わり羽根があるじゃん。走る必要なんてないよ」
「でも、地面を思いっきり蹴って走ってみたいです」


シルヴェは袋をクロネに渡しながらため息をついた。
そして、はっとしてシルヴェは慌てて言った。


「あ…ため息。私がついてはいけないのに」
「ため息くらいついてもいいって」


クロネは飽きれたように言った。しかしシルヴェはそれを認めまいとした。


「駄目です。私が―『神の子』がため息なんてついては、駄目なんです。私は希望ですから、私がため息をついたら地上の方達が落ち込んでしまいます」


「いや、誰もそこまで―」
「私がしっかりしなきゃいけないんです。『神の子』ですから、アルティア様にこの任を任された限り、しっかりしないと」


首都スファルを出て3日、クロネはシルヴェという人物が少し分かった。

『神の子』としての責任を重く受け止めすぎて、自分の感情を押し殺している。
シルヴェがあまり感情を表に出さないようにしていることが分かった。
それは魔物との戦闘の時だ。肩に酷い怪我を負ったのに、何食わぬ顔で苦痛を顔に出さず笑ってみせたのだ。
普通、眉をしかめるくらいは出すだろう。しかし彼女は出さなかった。



「……何でそんなに」


ぽつりとクロネは呟いた。



「何か…言いましたか?」
「いや」




クロネは袋からまだ生きているウサギを取り出した。
動けないようにして、ナイフでその白い身体を突き刺す。



ほら、ウサギですら。感情を出している。



紅い瞳が光を失っていく。


白い毛が紅く染まっていった―。

















-3日前-




再びクロネの病室を訪れたアルフの母―レアに旅のことを話した。
シルヴェが『神の子』であること。
旅をすること。
自分達がその旅に護衛としてついていくこと。



流石に世界が滅びようとしているとこまでは言えなかった。


全てを聞き終えたレアが口を開いた。





「ふぅん…やっぱり、お嬢ちゃんはアルティア人で、『神の子』だったんだね」
「やっぱりって!?」


アルフが驚いたように言う。
クロネも驚いていた。ただ一人驚いていないのはシルヴェだけだった。


「分かっていたんですね。レアさん」
「あぁ、お嬢ちゃんの中にある『元素』―、これは地上での言い方さ、アルティアではなんと言うか分からないけれど。 で、その元素が通常の地上の民とは違う。ヒューマンでもない、魔族でもない、エルフでもない。マーメイドやドワーフは姿からして違う。 元素の本質からして違う。…消去法だよ。残されているのはアルティア人。アルティア人が普通地上に降りてくることはない。 よっぽどのことがない限りね。だから―『神の子』という答えが自然と出てきたのさ。だけど、確信はなかった。クロネ達から話を聞くまではね」



ふっとレアは笑った。
クロネとアルフは驚いていた。まさかレアが。


「母さん凄ッ」
「エルフはね、構成している元素が分かるのさ。木や水、炎…ヒトもね」
「僕…わかんないや」
「エルフの方がその領域に達するのは、かなりの力がある人だけだとお聞きしましたが…。それも、族長の家系のみ」
「詳しいね。だけど、間違ってるよ。生まれながらにしてその力を持っている奴もいるのさ。あたしみたいに」


シルヴェは手を合わせてレアに向かって言った。


「どうか、私が『神の子』であることは内密に…」
「分かってるさ。下手に言ったら危険だからね」
「感謝致します」


さて。とレアが呆けたままのクロネとアルフに声をかけた。

「旅の準備しなきゃね〜〜」
「か、母さん?反対しないの?」
「するわけないさ。あたしもそこまで鬼じゃない。世界の救世主『神の子』様が護衛を頼んでるんだよ?断ったら終わりさ」
「で、でも…」
「行っておいでアルフ。世界を見ておいで。スファルだけじゃなくて、他の国を」
「母さん…」
「アルフ、シルヴェちゃんと家に行ってて準備してきておいで。あたしゃ、クロネに話があるから」
「…分かった。ありがとう母さん。行こう?シルヴェ」


アルフは病室から出て行った。シルヴェはレアに一礼してから去った。





「…さて。クロネ」


レアの表情は真剣だった。




「これから話すのはあんたを拾った時のことだよ。…そしてあんたのお母さんの話」










「母さんの…!?」




















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